市長意見書と会の見解
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市長意見書に対する当会の見解
2005/12/5
無防備地域宣言をめざす大津市民の会
12月5日(月)に開会された大津市議会本会議で、目片市長は「今回の請求に際して
の国際平和を願う市民の熱意は十分に理解する」としながら、平和・無防備都市条例制
定に反対を表明しました。これは、市民の平和と安全への願をふみにじり地方自治体の
責務を放棄するものと言わざるを得ません。
市長意見書の反対の理由は、
(1) 平和宣言を行い、平和実現や非核三原則についての姿勢や考え方を明らかにしてい
る。また平和的生存権や文化財保護についても、憲法前文や文化財保護法において規定
されており、あらためて条例を制定する必要はない。
(2) 無防備地域宣言は、国の見解によると「防衛に責任を持つ当局、すなわち、我が国
においては、国において行われるべきもの」で「地方公共団体が当該宣言を行うことは
できない」。
(3) 本市に現に自衛隊施設が存在し、災害時の復興支援等を行って頂いているところで
あり、地域社会の一員として果たす役割は大きく、無防備地域の要件を満たす地域とな
ることは考えられない。
以上3点から、条例制定の必要性は認められず、また地方自治法第14条第1項(自治体
の権限に属する事務に関し条例制定できる)の規定に抵触するので制定は適当でない、
と結論付けました。
(1)について
非核三原則について、条例案では遵守を確認するにとどまらず、平和宣言当時は想定
し得なかった劣化ウラン兵器も含め非核三原則遵守と大量破壊兵器廃絶のための市とし
ての措置(声明、抗議等)を明示し、平和宣言に実効性を持たせる内容としています。
文化財保護については、国の法律や市条例ともジュネーブ条約追加議定書第53条(文
化財への攻撃の禁止)に基づく戦火から文化財を守ろうとする.規定はないため条例にお
いて具体化したものです。
平和的生存権はこの条例案の目的であり、その目的達成のために無防備地域宣言および
平和行政を定めるものであって、本条例案の根幹をなすものです。そもそも、憲法の規
定を自治体が市民の平和と安全を守るために実体化する条例を制定することは、何の問
題もありません。また、自民党の新憲法案では「平和的生存権」が削除されており、こ
うした状況の中では平和的生存権を実現するための条例を制定するのは自治体の責務で
あります。
市長意見書は、規定の再確認にとどまらない市の責務としての措置の明示をしている条
例案を意図的に無視しているとしか思えません。
(2)について
ジュネーブ諸条約第一追加議定書第59条2項は、紛争当事国の「適当な当局」が無
防備地域宣言をできると規定しており、「国家」に限定していません。赤十字国際委員
会の解説集では「町長、市長、知事といった地方民政当局から出されることがありうる
」と明記しており、「国しかできない」というのは、日本政府の赤十字国際委員会の公
式解釈を無視した見解にすぎません。国の見解は法令ではなく、市長は住民の安全を守
るために何が必要かを判断すべきです。
意見書では、市が行うべきものでないので地方自治法に抵触すると言っています。し
かし、「市の事務ではない」という根拠は国際的に非常識な日本政府の勝手な見解にす
ぎません。地方自治法第1条の2では自治体の事務を「住民の福祉」を基本とし「地域
における行政を自主的かつ総合的に実施」と規定し、国については「本来果たすべき役
割を重点的に担い」「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねる」として
います。有事の際の住民の生命・財産を守ることは自治体にとって最優先事項であり「
住民の福祉の増進」そのものであり、「住民に身近な行政」そのものです。従ってこの
条例案が市の事務であることは明白であり、地方自治法に抵触するどころか、その主旨
を実現するものです。現に、神奈川県大和市は自治基本条例において第6条で「法令の
自主解釈」を定め、国の見解に頼ることなく地方自治の主旨に即した解釈と運用を行う
とし、第29条で「米軍厚木基地の移転」を設け、一部「国防政策」に踏み込んだ条例を
制定しています。大和市でできて大津市でできないことはありません。市長は、なんら
根拠のない政府見解の引き写しでなく自治体首長として住民の平和と安全に責任を持つ
立場から、この平和・無防備都市条例を制定すべきです。
(3)について
市長意見書の「無防備地域の要件を満たす地域となることは考えられない」という文
言は、住民の平和と安全を第一に考えるのでなく、武力を行使する戦闘集団である自衛
隊の存在が第一義的であるという考えかたに立っており、本末転倒というべきものです
。
そもそも、本条例案は市民の平和的生存権を、憲法と国際法の文民保護の規定に基づ
いて実現しようするものであり、我が国における自衛隊の存在を否定したり、自衛隊の
活動を制限することを目的とはしていないことは、条例案から明らかです。上記目的の
達成ための方策として国際法に規定する無防備地域の要件を満たすように、戦時におい
て本市が無防備地域宣言を行うに当たって機能停止を求めると規定しているだけです。
つまり、平時に自衛隊が存在していても、戦時においては戦闘員と移動用兵器の市域か
らの撤去を求めるということなのです。
自衛隊はその任務を自衛隊法第3条で国に対する侵害排除としており、主任務は戦闘
です。ですから、本条例の想定する有事となれば、住民を保護するわけでも災害の復興
をするわけでもありません。鳥取県の住民避難シュミレーションでは「我々は侵害排除
が仕事。住民避難は自治体と警察で」として「作戦行動の邪魔にならない限りにおいて
しか道路は住民に使わせない」と自衛隊第8普通科連隊長は明確に言っています。従っ
て、平時では災害復興で一定の役割を果たしているとしても有事では武力を行使する戦
闘集団となり、市長意見書にいう市の期待する役割は担えないことは明らかです。
以上、市長意見書は、本条例案の制定主旨やジュネーブ条約第一追加議定書の文民保
護の主旨ならびに憲法98条の条約遵守義務を理解しないものであります。市長と市当
局ならびに市議会議員には、住民の平和と安全を守る立場に立って、賢明な判断と議会
審議をお願いします。
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12/5大津市議会提出 市長意見書
意 見 書
この直接請求に係る条例案(以下「本件条例案」という。)は、日本国憲法の平和主
義の理念、政府の掲げる非核三原則、ジュネーヴ条約などの国際人道法及び本市の平和
都市宣言に基づいて、平和行政及び無防備地域宣言について定め、市民生活の平和と安
全、歴史と文化を守ることを目的として(第1条)、市民の平和的生存権(第3条)、非
核三原則の遵守(第4条)、無防備地域宣言(第5条)、市の責務(第6条)、文化財の
保護(第7条)、平和行政の推進(第8条)及び平和予算の計上(第9条)について定め
ようとするものである。
本市では、昭和62年6月に市議会の議決を経て、ふるさと都市大津恒久平和都市宣言を
行い、その中で、恒久平和の実現を願い、国是である非核三原則を堅持し、世界連邦平
和都市宣言とともに核兵器廃絶をめざし、核戦争防止を強く訴えており、平和の実現や
非核三原則についての本市の姿勢や考え方を既に明らかにしているところであり、改め
て平和の実現に向けた本市の責務や非核三原則の遵守について、条例で定める必要はな
いと考える。
また、本件条例案で規定する平和的生存権については、本件条例案前文にもあるとお
り、我が国の最高法規である日本国憲法の前文において確認されているところであり、
文化財の保護についても、文化財保護法(昭和25年法律第214号)及びこれに基づく条
例の規定により、保護を図っていくものであることから、改めて条例で定める必要はな
いと考える。
さらに、無防備地域宣言については、敵対する紛争当事国による占領に対して開放し
、特別な保護を受ける地域として宣言するものであるが、国の見解によると、その宣言
は、当該地域の防衛に責任を有する当局、すなわち、我が国においては、国において行
われるべきものであり、地方公共団体が当該宣言を行うことはできないとされている。
したがって、地方公共団体である本市が当該宣言を行うことを条例化することは、地
方公共団体はその権限に属する事務に関し条例を制定することができるとする地方自治
法(昭和22年法律第67号)第14条第1項の規定に抵触するものであると考える。
また、本市には現に自衛隊施設が存在し、災害時の復興支援はもとより、当該施設が
有する組織、装備、能力を活かした様々な活動を行っていただいているところであり、
地域社会の一員としてその果たす役割は大きなものがあることから、本市はジュネーヴ
条約所定の無防備地域の要件を満たす地域となることは考えられない。
以上のとおり、本件条例案による条例制定は、その必要性は認められず、また、地方
自治法第14条第1項の規定に抵触するもので、適当でないと考える。
なお、世界の恒久平和は人類共通の願いであり、市民の平和と安全を確保することは
国及び地方公共団体の最も重要な責務であって、今回の請求に際しての国際平和を願う
市民の熱意は十分に理解するところである。本市としては、今後とも、平和都市宣言に
基づき、平和事業や国際交流などに取り組み、市民一人ひとりに平和の願いとその尊さ
を訴え、広く人々に平和を希求する心がはぐくまれるよう、積極的に努力してまいりた
いと考えている。
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